「障がい者雇用の今」が分かる障がい者雇用レポート

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座談会 企業経営者・社会保険労務士・支援者が議論する障がい者就労の今、未来

企業経営者・社会保険労務士・支援者が議論する障がい者就労の今、未来

座談会参加者

障がい者を雇用するメリットとは

引地達也・支援者
私自身が就労移行支援事業所を運営していて、就労に対して企業側の理解が進んでいない、企業と障がい者のマッチングに不足点があると感じています。現在、国は障がい者就労の推進として、企業にプレッシャーをかけていますが、理不尽のように思います。

鈴江崇文氏・企業経営者
不動産・建築業である私の会社では、5年以上前から自主的に障がい者の方に外部委託という形で仕事をお願いしています。自社の管理しているマンションやアパートなどの賃貸物件の掃除を行ってもらっているのです。これが非常にクオリティが高く、依頼主である物件オーナーからは「前よりもきれいになった」とも言われます。

引地氏
仕事の内容によっては、障がい者の方がうまくこなせるということですね。では、企業が障がい者を直接雇用するメリットをどうお考えですか?

鈴江氏
仕事をするチームには様々な個性が必要だと思います。障がい者の方がいれば、普段気づかないことに気づいたり、他者への心遣いが生まれたりと、チームの輪が上手くまとまる場合もあると思います。これは、結果的に生産性を高めることにつながるのではないでしょうか。

労働者不足の現実の中で

首藤糸穂氏・社会保険労務士
社労士の立場から見ると、現時点では、多くの企業において受け入れ態勢が整っているとは言い難いと思います。例えば、健常者が普通に仕事をしていると気づかなような段差でも、身体に障がいがある方にとっては大きな障害となってしまいます。

飯塚匡春氏・社会保険労務士
企業には競争を勝ち抜いていくための力が必要です。しかし、今の障がい者雇用の制度は「福祉」という側面が強く、企業が求める「営利」とは異なる部分が多いのではないかと思います。今後は、福祉と営利をうまく結びつけられるような工夫や仕組みが必要なのではないでしょうか。障がい者雇用の企業メリットは、先ほど鈴江さんがお話されました通り、長期的に見れば「チームの和」という点で組織運営に寄与する部分も多いと思います。しかし、短期的視点におけるメリットを多くの企業は見出していないように感じます。

首藤氏
労働力が足りないという現実の中で、障がい者の方で人員を補うという方向性になれば良いと思いますが、企業側で障がい者ができる仕事を決めつけているようにも感じられます。

飯塚氏
法定雇用率を満たすために雇用しても、依頼する仕事はシュレッダーのみといった事例もあります。

鈴江氏
障がい者の方を採用するのは必要だと思いますが、企業として単純労働しか任せないというのは、社会の流れに逆境しているかもしれません。これから、AIの出現などで単純労働の付加価値は下がっていくことも考えられますしね。

あるべき雇用の形を探る

首藤氏
現在、精神障がいを負っている方も増えてきています。そのような方は、調子の良い時はスキルを発揮して健常者よりも良い仕事をすることも珍しくありません。しかし、調子が悪いと家から出られなくなってしまう場合があります。
企業ができることとしては、なるべく調子を落とさせないための配慮もあると思います。精神障がい者の方は、同じ境遇の方同士のグループをつくることで職場に行く不安が無くなるといったケースがあります。企業としては複数名雇用することで、グループを形成してもらうことができると共に、急な欠勤にも対応する体制を構築できるかもしれません。

引地氏
グループを形成することは、コミュニケーションがとれる体制をつくること。それは、その人を認めてくれる、理解してくれる人が常にいるという安心感をつくるということです。企業には、ぜひコミュニケーションとり、その人を理解することとができる体制をつくっていただきたいと思います。
ただ、そこには常に生産性の議論がつきまとってきます。ここが、福祉と営利を追及する企業との壁ではないでしょうか。ここで、社会保険労務士の方には福祉と企業をつなぐパイプになっていただければ非常にありがたいです。

飯塚氏
例えば、人材雇用では費用の1/3が助成金として支給される場合がありますし、障がい者を多く雇用すれば報奨金もあります。反対に、決められた人数の障がい者を雇用しなければ罰金を支払わなければなりません。社会保険労務士は雇用に関する制度活用の専門家です。企業が障がい者雇用を行った際には、最大限の金銭的なメリットを得られるように支援できます。企業の障がい者雇用が進まない理由の一つに、生産性というものがあるとすれば、私たちはこれをフォローすることができます。

首藤氏
障がい者の方を雇用して初めて分かることも多いと思います。企業には一度、「トライル雇用の助成金」などを活用してもらい、障がい者雇用に取り組んでもらえればと思います。

鈴江氏
企業としても、採用してみてその人が組織にマッチすれば良いのですからね。いずれにしても、企業も国から強制されるという形では続かない。企業、障がい者共に幸せではないと思います。だからこそ、企業には障がい者の個性や強みを活かすことのできる企画を立てることが求められていると思います。

希望の未来に向かって

引地氏
精神疾患は誰でも罹患する可能性があり、決して人ごとではありません。身近な方に疾患者がいる方も多いのではないでしょうか。だから、私は障がい者就労に関わる全ての方に、家族に接するつもりで支援をしていただきたいと考えています。

鈴江氏
私は事業として、ワーキングプアなど、現状の暮らしに課題を抱えている方々に、地方に移住して農業に従事してもらう支援を企画しています。ここに、ぜひ障がい者の方に来ていただきたいですね。これが実現すると、障がい者雇用促進、農業人口不足、空き家活用といった日本の抱える課題が解決できるのではないかと思います。

引地氏
それは素晴らしいお考えですね。やはり、ビジネスにしていかないと続かないのが日本社会です。その環境に、障がい者を取り巻くコミュニティができれば、障がい者の暮らしも豊かなものになるのではないかと思います。福祉側としても、企業と組合えれば様々な可能性が見出すことができます。まずは、フィールドワークの場として農業体験も良いのではないでしょうか。