約20年前の2003年に明治大学が新しい棟を建てることになり、このタイミングで当店、カフェ・パンセもオープンしました。さらに10年後の2013年、当社（明大サポート）の障がい者雇用が始まったのですが、当時は会社内で障がい者雇用に詳しい者がいなかったため、多くの福祉事業所や支援学校などを見学に行き、学びました。

そして当社が明治大学の事業会社という位置づけもあり、教育機関の一端として、支援学校の卒業生の就職先になることができればと考え、受け入れることにしました。そのような時、タイミング良く「カフェをはじめとした飲食店で働きたい」という卒業予定の方がいたので、その方に来てもらうことにしたのです。なお、その方が今でも当店で働いてくれている知的障がい者のＮさんです。

Ｎさんには飲食スペースのセッティングや食器洗い、店内清掃、ゴミ捨てなど店舗運営に関わる多くのことを実施してもらっていますが、コロナ禍によって業務内容に大きな転機が訪れました。1年の店舗休業期間が明けた後、食器類の使用を控えて環境に配慮した使い捨て容器を使用するようになり、それに伴ってＮさんの食器洗いの業務がなくなってしまったのです。代わりの業務はどうしようかということになって、それまでは実施したことのなかった「レジを使用したお会計業務」にチャレンジすることになりました。

結果は、(たまに失敗することもありますが)仕事を見事にこなしてくれました。これには私たちも、Ｎさんの新たな能力に気づくことができてとても嬉しかったです。私たちは障がい者雇用において「得意な仕事を優先しながらも、不得意な仕事も切り離さない」ということを大切にしていますので、それも功を奏しました。

今後もNさんの可能性を広げるために現在の就業場所に加えて、当社での他業務でも出来ることがないか模索しております。
なお、Ｎさんは10年以上、職場に定着して様々な業務を覚えてくれていますが、これもジョブコーチ※の梅田さんがＮさんの就労の下地をつくってくれたおかげだと思います。

※ジョブコーチ…障がい者の就労に当たり、出来ることと出来ないことを就労先に伝達するなど、障がい者が円滑に就労できるように職場内外の支援環境を整える専門家。

まずは、カフェ・パンセのスタッフだけではなく、他部署を含めた社員一同に新たな気づきがあったということです。私たちは常にお客様目線でサービスを行ってきましたが、障がいのある方の視点をより深く知ることで、広い視野をもってサービスの質を上げることができました。さらに、これから来る本格的なボーダーレスな共生社会を迎えるにあたって、私たちの「障がいのある方がいる環境を当たり前のものとして受け入れている」という感覚はより一層求められるものになるのではないかと思います。そういった面では、会社全体として当社の社員が社会的素養を身につけることができたことは大きなメリットではないかと思っています。

ただ、きれいごとだけではなく、Ｎさんと共に、我々もまた悩んだり、怒ったり、泣いたり、様々なことを積み重ねての10年でした。今では笑い話にできることもありますし、現在進行形の問題点も多々あります。今後もきっとそうしたことを積み重ねながら、ごく普通に、ごく当たり前に、ずっと続いていくのではないかと思っています。

一緒に働く仲間として、Ｎさんにはぜひ「働くことの喜び」をたくさん感じて欲しいと思います。最近、Ｎさんの妹さんにお子さんが産まれたそうです。Ｎさんは早速「僕の働いたお給料でランドセルを買ってあげたい」と言っていましたが、それを聞いてとても嬉しい気持ちになりました。これからも、共に店を盛り上げていきたいと思います。